2015年11月25日 : 未分類
脊椎(せきつい)分離症とは、腰痛持ちのスポーツを習慣的に行っている子供にしばしばみられる病気です。早く発見できれば、脊椎すべり症への進展を防ぎ、手術をせずに治療できる可能性も高くなることから、早めの診断・治療が望まれます。
今回は、「脊椎分離症になる傾向があるのはどんな人?」をテーマにお話しします。
1.脊椎分離症ってどんな病気?
脊椎とは、背骨(せぼね)を形成する一つ一つの骨のことを指します。背骨は、頚椎(けいつい)7個、胸椎(きょうつい)12個、腰椎(ようつい)5個、仙椎(せんつい)5個がひとかたまりになった仙骨(せんこつ)、尾骨(びつい)3~6個の計約30個の脊椎から構成されています。
脊椎分離症は、ほぼ腰椎に起こるため、分離症といえば「腰椎分離症」を指すことが多く、5つの腰椎の中でも仙骨に近い、下位腰椎(特に上から数えて5番目の第5腰椎)に多く認めます。
脊椎には「椎弓(ついきゅう)」という弓状に飛び出た突起があります。椎弓は、上の脊椎と下の脊椎とをしっかり固定する上関節突起と下関節突起の間を橋渡ししており、脊椎にとって非常に重要な構造の一つです。この椎弓が分離した状態が、「脊椎分離症」です。
2.子供に多い分離症
子供の背骨はまだ柔らかいため、スポーツなどで過剰に負荷がかかると力学的に弱い部分がすることがあります。
腰痛を持つスポーツ選手を対象とした調査では、16~40%(研究によって差があります)が腰椎分離症であり、腰痛を持つ18歳以下の若者でも約16%に腰椎分離症を認めた、という報告があります。
さらに、腰を伸展させた時に痛みがあり、ほぼ毎日スポーツをしている10歳~18歳の若者では、なんと、約半数に腰椎分離症を認める結果となりました。
このことから、10~18歳の発育期に習慣的にスポーツを行っている子供は非常にリスクが高いことがわかります。
3.子供以外に分離症は起こるのか?
諸説ありますが、基本的に椎弓のみが外傷で損傷をうける可能性は低く、年齢とともに頻度が増加する傾向も認めていません。特に、骨がしっかり形作られる高校生以降での分離症発症は、非常にまれです。
高齢者では椎骨が前後にすべる「すべり症」と合併する、「分離すべり症」を認めることがあります。
3.遺伝との関係は?
腰椎分離症は家族内での発生例が多いため、遺伝的素因が一因と考えられています。
椎体や椎弓の形態異常、あるいは二分脊椎などの脊椎の病気を合併しているケースも見受けられ、兄弟姉妹で分離症を発症した例も多く報告されています。
こういった遺伝的、体質的な要素にスポーツによる過度の力学的負担が加わって疲労骨折が起こるのではないか、という説が有力です。
4.子供でのすべり症合併
すべり症とは、上下の脊椎が前後にずれる状態のことです。分離症によって起こる「分離すべり症」と、分離をともなわない「変性すべり症」に大きく分けられます。ここでは、分離すべり症についてお話しします。
上下の脊椎の間には椎間板(ついかんばん)という繊維とコラーゲンでできたクッションがあります。脊椎と椎間板の間には、成長軟骨が存在し、高校生頃までに硬い骨に置き換わります(骨化)。
子供の場合、分離症によって上下がぐらぐらで不安定になった骨を、柔らかい成長軟骨が支えきれずに上下の脊椎がずれてしまい、「分離すべり症」となります。
5.分離症をもった人が中高齢になったら?
分離症を持つ子供が中高齢になると、脊椎と脊椎との間のクッションの役割を果たす椎間板のコラーゲンが失われて椎間板が硬くなり、椎間板が変性することですべり症を合併することがあります。
すべり症合併例の多くは神経を圧迫して、腰痛と神経根刺激症状(しびれ、筋力低下)が出現します。
6.早めの診断・治療が大切
治療の基本は、手術を行わない保存療法です。保存法には2種類あり、分離した骨を再びくっつける「骨癒合(こつゆごう)」を目指す治療と、「疼痛コントロール」のための治療です。
発症早期であれば、運動の中止と分離症治療用のコルセットを用いることで、分離した部位の骨癒合(こつゆごう)が期待できます。通常数ヶ月~半年の治療が必要となります。
若年であるほど、成長軟骨が柔らかく、すべり症を合併しやすいため、進行度に関わらず、コルセットの治療を行われることが多いです。
しかし、激しい運動をしなければ無症状であることも多いため、受診したときには完全に分離しており、分離した部分が関節のようになる、「偽関節」の状態であることも多いのが現状です。この場合は、骨癒合は困難であるため、疼痛コントロールに主眼がおかれます。
病態が進行して痛みが強い場合やスポーツ活動を今後も継続するために、腰椎分離すべり症に対して脊椎固定術という手術が行われることがあります。こうなる前、つまり骨癒合が期待できる時期に、早めに診断、治療してあげることが重要なのです。